日本史部会2014年9月例会

日 時:2014年9月20日(土)18:30~
会 場:筑波大学附属駒場中・高等学校

報告者:丸浜昭さん
内 容:実践報告 「日中戦争とはどのような戦争だったか

―地図と年表と資料を使って」(大学)

報告者 丸浜昭さんから

 少なくとも数百万の中国側の犠牲者を出した日中戦争がどのようなものだったのか、日本人は具体的なイメージを持てないでいる。731部隊や南京事件はある意味で特殊な作戦だ。日本軍の正規の作戦としておこなわれたものとして重要なのは、中国側のいう「三光作戦」―日本軍のいう「尽滅掃討作戦」…「治安戦」だろう。というような笠原十九司氏の指摘を受けとめたいと思いながら、この数年、大学で取り組んできました。

 今年は、『北支の日本軍』という軍関係の書籍附属の地図と、岩根さんと昔作った(日本史部会の前身の会の学習会の成果として)日中戦争の年表のバージョンアップ版と、笠原本からのいくつかの資料とを使って、やっとこれまでより少しわかりやすく提起できるようになったかなと感じました。

 「嫌中」意識が醸成されるなか、日中戦争をどう学ぶか論議することは大切という思いがあり、不十分ながら発表させてもらうことにしました。学生がどうとらえたかも論述試験から示します。


会場から(2014.10.10掲載)

 日本人の間に根強くある、アメリカとの戦争に負けたという認識。一方で、最も長く戦い、負けた相手国でもある中国に対する認識の乏しさ。こういった戦争観を批判的に検討すべく、主に笠原十九司氏の研究成果に学びながら、丸浜さんが近年取り組んできた、日本軍の治安戦をテーマとした実践報告でした。
  アメリカの高校生たちが被害の実態に関する情報を与えられぬまま原爆投下に評価を下す。そういった授業風景を写したドキュメンタリー番組の一部を導入にしながら、日本人の戦争観に迫っていきます。防衛庁防衛研修所戦史室による戦史叢書『北支の治安戦』の付録地図を用いて、視覚的に日中戦争、特に華北の状況 をイメージさせ、また、証言や小説などから日本軍が中国戦線で何をしていたのかを具体的に紹介していくという展開でした。そして、試験では「日本人の十五年戦争の捉え方を検討する」というお題での論述を通じ、より広い視野で考えさせることがねらわれていました。
 日中戦争についてきちんと学ぶ。現在の歴史をめぐる問題を考える前提としてもどうしても必要でしょう。地図により視覚的に理解を補う、よりイメージを持たせやすくするのは、追試をしてみたいと思わせるものでした。
  本報告では、比較的多くの時間を日中戦争に割ける大学での実践でしたが、中・高の限られた時間の中で扱う場合、教材として何を取捨選択し、どのような展開が考えられるか、同じように扱うのはやはり難しいのではないかというのが、参加者の共通の意見として出されました。今後、参加者がどのような授業を行ってきたか紹介しあいながら、授業案について例会の中で考えていければ、と思います。

 

感想

◆議論の中で印象的だったことは、治安戦はベトナム戦争などにもつながっているという指摘です。今日、世界各地で起こっている戦いにも、同じ傾向が見られる場面があります。過去だけではなく、現在を捉える上で、日中戦争において行われた治安戦は避けて通ることはできないと感じました。提示していただいた地図や年表、資料を活用しながら、私自身も考えていきたいです。ありがとうございました。(I)